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遙かなる赤銅渓谷5

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 結局、ディエゴの宿に二泊し、いよいよウリケの村に向かう。セロカウイからウリケまでは僅か30キロほどの距離だが、曲がりくねった峠を登り降りする。

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 今回、ウリケでの宿は決まっておらず、村外れのキャンプ場のコテージを利用するはずだったが、最終的にディエゴが民家の庭先に建つ「離れ」を確保してくれ、我々はレースが終わるまで、そこに宿泊することになった。今回のレースはララムリの人々が約250人、メキシコ国内からはやはり250人、そして外国からもやはり250人ほどの選手が参加する。小さなウリケの村に、それだけの人々を収容する施設などあるわけもなく(もっともララムリの人々はほとんど野宿だが)、最初から宿の確保に困っていたのだ。

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  ウリケの村の中心にある広場ではレースの開催を告げる絵が壁に描かれ、道端の脇の低い壁にはワラーチの足跡が描かれている。この一週間、この村はまったく別の村になる。レストランでの食事、マーケットでの買い物、すべての価格が変わり、交わされる言語や、人々の暮らしも変わる。

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 一年に一回、レースの為だけにこれだけの人々が集まり(しかも年々参加者が増えている)、その後、地元の人々の暮らしに影響は出ないのだろうか。アウトドア・ライフでの基本ひとつに「自分の足跡以外はそこになにも残すな」という言葉があるが、我々は旅人として、そこに暮らす人々に、どのような影響を与えるのだろうか。

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 毎食のようにトルティーヤがテーブルに並び、その味に飽きて残すことが当たり前のようになった時、一人のララムリの少年が、我々が残したトルティーヤを美味しそうに頬張るのを見て、胸の奥底が小さく疼く。だが訪れた土地に於ける過度の感情移入は危険だ。我々はそこを訪れ、そしてすぐに去っていく。なにかを感じても、なにも出来ないのだ。旅の想いを自分のココロに深く刻んでも、そこに己の存在を深く刻むべきではないのだ。それが異邦人としての暗黙のルールである。

 そしてそこで味わった、少しの疼きや痛みを自分自身の人生に昇華させてこそ、そこに真の旅の意味があるのだ。

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    木村東吉
    1958 年大阪生まれ。
    20代は雑誌「ポパイ」の顔としてファッションモデルとして活躍したが、その後、30 代に入りアウトドア関連の著作を多数執筆。
    現在は河口湖に拠点を置き、執筆、取材、キャンプ教室の指導、講演など、幅広く活動している。
    また各企業の広告などにも数多く出演しており、そのアドバイザーも務めている。

    詳しいプロフィールはこちら

    木村東吉公式サイト「グレートアウトドア」

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